Lomilomiとは
Lomilomiとは,ハワイ語のlomi(こする,押す,絞る,つぶす,こねる…)という意味から作られた概念で,疲れたり痛がったりしている人の手足を揉んだりこすったりするという意味のようです.日本では一般的に,ハワイの伝統的マッサージ,ロミロミマッサージとして知られています.日本の按摩,中国式,スウェーデン式,タイ式などとの違いで一番大きいのは,ただ筋肉や骨を理解してもみほぐすだけではなく,自然や目に見えないエネルギーが関わってくるところだと思います.
そう言うと,私も日本で生まれ育ち,ほぼ人間の世界で完結する人生を送ってきているため半信半疑でスタートしているわけですが,ハワイアンの文化や考え方について興味深いと感じた一人の日本人として,現時点での理解を残しておこうと思います.
まず,どうしてロミロミマッサージについて興味を持ったかについて記しておきます.自分はアトピー性皮膚炎である皮膚科医ですが,これが日本で,学生,社会人として生活をしていると,どうしても首や肩,背中などあらゆるところのコリというものがつきまとうわけです.アトピー性皮膚炎でなくともきっと皆さん共通の悩みだろうとも思います.
若い時から寒気がするくらい肩首のコリが出てくるため,その時その時で,あらゆる場所でマッサージというものを受けてきました.その経験の中で,自分にとって,もしかしたら日本人,現代人にとってこのマッサージというものが,とても大切な要素,必要な要素なのではないかとぼんやり思っていたわけです.実際に1時間で5000円から1万円かかったとしてもビジネスとして成り立っていることを考えても,大きな間違いではないのだろうと思います.
その延長線上でロミロミマッサージを受けたときに感じた,「ん?これは何か違うぞ」という全く根拠のない感覚は,消えることなく膨らみ,最終的に現地で直接教えていただけるというご縁を頂くことになったわけです.

もちろん,アトピー性皮膚炎の患者さんに対してこのLomilomiが,何かプラスになるといいなという考えがないわけではありませんが,まだ今はそこまで確証があるわけではなく,でも何かつながることがあるのではという確信めいた妄想が,頭で考えているわけでも,腹に落ちているわけでもなく,ただ心に静かに灯っているわけです.
ハワイアンの文化
日本列島では,紀元前13000年頃~紀元前300年頃に縄文時代,紀元前300年頃~紀元300年頃に弥生時代,紀元300年頃~710年頃に古墳時代といわれますが,ハワイ諸島には日本での古墳時代のころにポリネシア人がマルケサス(マルキーズ)諸島からカヌーで移住し,1000~1300年頃(日本では平安時代)にタヒチ島あたりから第2陣が移住したといわれています.カヌーに乗って運ばれてきたものは,人,言語,植物,社会制度・価値観,文化・生活習慣,ヒーリングアーツ(ロミロミ)でした.

古代ハワイアンは,山(mauka)から流れる川,たどり着く海(makai)を中心とした領域を民族集団の単位(アフプアア(ahupuaʻa))とし,そこには生活に必要なものが全てあり,人はそこで生まれ死んでいきます.外の世界を知りようがないこの環境では,人々はその年齢や特性によって,それぞれが専門的に役割(kuleana)を果たしていきます.一年を通して25-30℃で過ごしやすく,水や作物も豊富にあり,たんぱく源として魚や時に豚がいる環境,貯蔵する必要がなく,厳しい寒さや飢えに備える心配も少ない.大陸で搾取される民族と比べ,心豊かに自然を感じ,他者を尊重し助け合い,満たされることで人に分け与え,それが好循環する民族とでは,根本的に違ってきます.そして例えばヒーリングを専門とする年長者が,その才能の兆しのある世代に伝授し受け継ぎ,先天的後天的に「血の記憶」と共に受け継がれる能力が大切に伝承され残される土壌がここにあるのだと理解できます.
そして日本も島国,共感し納得できるところも多くあるような気がします.
神々の世界,自然界,人間界
「勝ち組」という言葉は,「一般的に、勝負事や競争において成功を収めた人,社会的に成功している人、または経済的に裕福な人を指す」とのことですが,日本で育つとなんだかこの勝ち組になることが最終目標で,そのために小さなときから勉強し,いい成績をとり,偏差値の高い大学に入り,年収の高い仕事につくレースの中で競争することをしがち,させがちだと強く感じます.最近,いわゆる学歴社会というものが少し崩れてきていると感じてはいますが,それはきっと,偏差値の高い大学をでても年収のよい仕事に就ける確率が以前より高くないこと,大企業に就職できても生涯の保証が以前より揺らいでいることが理由だと思うので,結局,勝ち組になることが最終目標という意味では何も変わっていないのだろうと思います.
しかしながら,いわゆる勝ち組になり必要以上のお金を蓄え経済的自由を得た先に,本当にゴールがあるのでしょうか.
日本で生まれ育ち,長い間,違和感を覚えてきたことの答えが,ハワイアンの考え方の中にあるような気がします.

Lomilomiの先生に教えてもらったことで衝撃だったことの一つは,多くの人が人間界の世界しか意識できていないこと,ということでした.おそらく自分を含めた日本人のほとんどが,人間界に偏っているのだろうと思います.ハワイアンは,人間界と同様に,神々の世界,自然の世界が確かに存在し,自分はそれらの世界の中に存在していると,当たり前のように感じ,考えているとのことでした.
神々の世界と言ってしまうと,あぁ,スピリチュアルの世界に誘われてしまったのですねとなりがちなので,ちょっとこれは少しずつ慣らしていく必要があり一旦おいておきますが,日本でも神社やお寺のお参りや,お盆やお彼岸といった祖先を敬うことを当たり前のようにしているので,行いとしては大きな違いはないように思えます.しかしながら,ハワイアンはプレ(お祈り)を日常のあらゆる場面で行い,神々の世界とのコミュニケーションをしています.そして彼らの場合は儀式的な形だけのものではなく,ちゃんとなんらかの返答,サインが返ってくるようです.
自然の世界は日本でも馴染み深く,山や川にいってマイナスイオンに触れるとか,犬猫動物に癒されるとか,昨今のキャンプなどの流行りをみていると,人間にとって自然と触れ合うことが大切だということは疑う余地がありません.
人間も動物も植物も,元をたどれば神の化身であり,そこに上下関係はなく,それぞれを尊重している様子が伺えます.お祈りもその観点からは,その土地の自然や神々に対し,尊敬の念を込めた当然のご挨拶なのでしょう.自分を大切にしている故に,他者も同じように尊重し,それは細胞を持つものに留まらず,自然界すべて,さらには目に見えない世界にまで広がります.
Lomilomiは必ずプレでスタートします.この意味を今後,自分自身で感じていけたらいいなと思います.
人間の健康とは

ハワイアンの考える人間の健康的は生き方とは,神々の世界(Akua)自然界(Aina)人間界(Kanaka)の中で調和していること,バランスがいいことだそうです.今の自分のように人間界のみの生活でいることや,例えばスピリチュアルに尖るのもだめ,自然界だけで他者と断絶し暮らすのもだめ.この考えがずっと昔から伝わり,根底に流れているハワイアン.足るを知り,なんだか楽しそうで満ちていそうで,他人に優しいアロハなハワイアン.
もちろん,日本人を否定しているわけでも,ハワイアンを全肯定しているわけでもありません.
人間が幸せで健やかだと感じるために必要なエッセンスは,日本では気づきにくく,ハワイアンの中に多く流れているのかもしれないと感じ,
それを探求する糸口をハワイに見つけたり!となったわけです.
血の記憶
先生とお話する中でインパクトのあった話の二つ目は,ハワイアンがもつ「血の記憶」というものでした.先述したアフプアアの中で代々受け継がれる才能は,特に女性から女性に受け継がれることが多く,遺伝的な要素が強いのだろうと思います.日本でも超自然的な能力が,おばあちゃんから受け継がれたなど聞いたことがある内容です.
人間の血液は赤血球と白血球があり,赤血球は成熟すると脱核といって核がなくなり染色体,つまり遺伝子がなくなりますので(厳密には表面のHLAですが),他人に輸血しても免疫抑制剤を必要としません.しかしながら,白血球(幼弱な白血球)を輸血する骨髄移植では,核も遺伝子も残っているため他人のものと認識があり,自分の免疫細胞の攻撃を受けてしまいます.そのため,先に放射線,後に免疫抑制剤を使用しなくてはなりません.
証明されているかどうかはわかりませんが,輸血では起こらないことが,骨髄移植ではしばしば耳にすることがあり,それは性格の変化です.ドナー(骨髄提供者)の性格に,受けた人の性格が似てくるという現象は,以前から知られています.
おそらく白血球には性格や考え方に影響する何かが存在しているのでしょう.そしてそれは,能力的なものにも影響するのかもしれません.

そして,自分の身近で骨髄移植を受けた人がいて,いままでは肌が強かったが,移植後にいわゆるアトピー性皮膚炎のような肌になっているんだが.という相談を受けました.その時は,いろんな環境の変化や,薬の影響でしょうと思っていましたが,なぜか今になって,思い出します.

戸倉先生が日本人に広く教えてくださった,アトピー性皮膚炎には外因性と内因性があるという話,今では皮膚科医にとっては当たり前になりました.アトピー性皮膚炎と診断される80%の人は,フィラグリンタンパクなどの異常により皮膚のバリアが弱く,長年その皮膚でいると,慢性的な特徴的な皮膚炎を繰り返し生じる状態になり,それを外因性アトピー性皮膚炎とよびまず.20%は女性に多く,皮膚のバリア機能は弱くないのだけれども,金属アレルギーなどの合併も多く,アトピー性皮膚炎と診断される皮膚炎(ぽつぽつとした丘疹,痒疹)が発症してしまう病態が内因性アトピー性皮膚炎といいます.
女性に多い内因性アトピー性皮膚炎,血の記憶,知っている人にはそらそうやとなるのかもしれませんが,自分にとってはよくわかっていない皮膚炎(アトピー性皮膚炎)の病態に近づけることへの好奇心はマグマのように湧き出るものなのかもしれません.
ハワイアンに少ないアトピー性皮膚炎

お話の中で,ハワイアンにはアトピー性皮膚炎の人が少ないらしい.これはまず本当にアトピー性皮膚炎の症状をもつ人が少ないのか,診断の違いなどの問題があるのか,メインランドのアメリカ大陸との罹患率の違いはあるかなど,まず本当に少ないのかどうかを検証する必要がありますが,
もし,それが本当だと仮定して,その理由について考えていくことが,日本でアトピー性皮膚炎の専門治療をする上で大きなヒントになるのではないかと思っています.
もちろん,一年を通じて気温が温かく,湿度も一定,夏のもわっとした熱中症になる暑さや,湿度気温が低くなる冬のあるなしによるところも影響は大きいとは思います.
でも,ハワイアンにアトピー性皮膚炎が少ない理由はきっともっとあるのだと確信しています.もちろん,それをLomilomiマッサージで少しは貢献できる可能性を考えてはいますが,もっともっと何倍もの秘密が隠され,それが一つでもわかるのではないかとわくわくしているわけです.
人間の健康とは何か,健康になるために必要なエッセンスと,健康な状態でいるときの人間に生じている変化,そして,健康でいる人の美しさと魅力.
Lomilomiを通してハワイの入り口に立つことができました.日本で抱いた疑問,違和感の答えの糸口をハワイの中で見つけることができるかもしれない,アトピー性皮膚炎患者に必要なのはもちろん治療だけでは不十分,寛解,治癒を目指すため必要なことを探求させてもらえるという,ワクワクマグマが湧き出しています.
火山の女神ペレさんの粋な計らいで,見に行ったちょうどその日だけ,噴火をしていました.勝手にペレさんにも応援してもらっているような気になっています.体感した噴火の熱感,轟音のエネルギーは,人間界だけだった自分の背中を,神々の世界,自然の世界に強く押してくれていると感じて日本に帰ってきました.

ハワイ島ヒロ

ハワイ州オアフ島,ホノルルの空港から1時間弱で到着する,ハワイ島東海岸にあるヒロという街は,リゾート地とされる西海岸のコナと比べ,ハワイアンの生活の場所とされています.富士山より高い4205mのマウナケア(四駆車で山頂まで行ける)や,先ほどのキラウエア火山へのアクセスがよい場所にあります.地形的に雨が多いとよく言われますが,確かに滞在していると,1日に数回さーっと雨の音がしてきます.ずっと天気のよいリゾート地をイメージしていると少しネガティブな印象かもしれませんが,短時間の雨は気温を抑えてくれますし,タクシーの運転手さんは,この雨が住んでいる人にとってはありがたいんだよと言っていました.

イメージ的には,空には雲がかかっていることが多いのがヒロのイメージでしょうか.個人的には,このさっぱりとした雨の雰囲気がとてもお気に入りでした.
感情を我慢することなく,豊かで,しかしあとくされなくさっぱり.
アメニモマケズのように強い人間を理想とするのではなく,湧き上がる感情を素直にさっぱりと表現する,そういうものに憧れます.
オールドタウンと表現されることの多い街ヒロ.どこか懐かしい匂いのする街並みは,自然と一緒に落ち着いて生活するにはちょうどいいんだろうなぁと感じていました.日本人は特にでしょうか,皆さん本当に親切で優しいことが多い,素敵な場所でした.