毛(ウール),麻,アクリル,ポリエステルは注意する

これを理解すると,ウールやアクリルの衣類を身に着けると,チクチクして我慢できなくなることや,夜服を脱いだ後にじんましんのようなぼこぼこした湿疹が衣類をまとっていた範囲に生じて我慢できないことが納得できます.
繊維には天然繊維とそれをまねて人工的に作った化学繊維があります.偏った考えの方で,化学繊維は絶対だめで,天然繊維,特に綿にしなさいという人がいますが,アトピー性皮膚炎の病態を考える上で,偏った考え方をしているうちはあまりうまくいかないことが多いです.大原則は,『ためしてみる,自分の肌に聞いてみる』です.
具体的には,天然繊維の中でも,綿,絹は昔から皮膚への刺激が少なく,肌に優しいといわれてきました.その通りだと思います.ただし,気を付けるべきは,綿でもピチっとした肌着の場合に,熱がこもって逆に痒くなってしまうことがあり注意が必要です.麻は含有率が高いと刺激が強くなりますが,ものによっては大丈夫な場合があります.さらに,ウールは天然繊維でも刺激性があることはよく知られていますが,比較的高価なものは,刺激性が低く,あったかいので,ウールだからといって絶対だめではありません.
化学繊維の中で最も注意が必要なものはアクリルです.そもそも高価なウールに似せて作ったものがアクリルですので,安価なセーターなどではアクリルで作られているものもあり,人によっては,身に着けた瞬間から猛烈な刺激にもだえ苦しむ場合もあります.ユニクロなどのヒートテックにはアクリルが含まれていることが多く,着た瞬間からかゆみが生じる場合もあります.ストッキングなどで使われるナイロンは,アクリルほど刺激はありませんが,圧迫と相まって,装着時,脱いだ後に痒みが生じる場合があります.ポリエステルは含有率が高くなければさほど問題はありません(50%程度まで)が,ポリエステルほぼ100%のフリースやエアリズムでは,皮膚が乾燥しやすく,長時間肌に触れる場合は注意が必要です.汗をまったく吸ってくれないため,密着した状態で汗をかくと,しっかりと汗による刺激性接触皮膚炎を起こします.ポリウレタンはさほど皮膚に密着することが少ないですし,それ自体はゴムのような肌触りなので,問題は少ないと思います.レーヨンは婦人服などに含まれる,テロっとした生地ですが,これは,個人差があるようで,一概に良い悪いとはいえません,大原則『ためしてみる,自分の肌に聞いてみる』でお願いします.
アトピー性皮膚炎遺伝率

ここで,アトピー性皮膚炎が遺伝する病態であることの根拠を説明します.母親の皮膚が弱い場合,子供が弱い皮膚で生まれる確率が41%で,父親の場合は30%です.両親の皮膚が弱いと,4人に3人が弱い皮膚で生まれるという報告,6.12倍になるという報告があります.どちらも強い皮膚でも,6人に1人は弱い皮膚で生まれてきます.
この遺伝率ことを理解することは,自分たちの皮膚を理解し向き合うプロセスが単に自分だけのためではなく,子供の皮膚をも理解しケアすることにもつながります.赤ちゃんのころから,成長し自分でスキンケアの重要性が理解できるようになる日まで,スキンケアのバトンタッチの日まで,その子の皮膚を守るのはあなたです.正しくアトピー性皮膚炎,皮膚の弱さを理解し,どうしていくかを今,一緒に考えましょう.
今までの医療は,アトピー性皮膚炎という大きな病態に対して,あまりにも小さく,限られた治療しかありませんでした.今では様々な薬が登場し時代が変わっては来ていますが,それでもなお,一粒飲んだら,1本注射したら,たちまち頭の先から足の先までの皮膚の細胞の遺伝子異常が改善し,その瞬間から皮膚が強くなり,どんな刺激にもまけない皮膚が手にはいるという『体質改善』という魔法のような薬は,現在でも,ありません.薬はどこまでいっても『対症療法』なのです.青い鳥を追い求めても,それは現在,青い鳥でしかありません.世界中で研究者がアトピー性皮膚炎の病態解明と創薬に尽力してくれています.薬の力で本当に『体質改善』『根治,完治』が目指せる日まで,我々は努力し続けなくてはいけません.
アトピー性皮膚炎のたった3つの違い

では,もう一度アトピー性皮膚炎のたった3つの異常を確認しましょう.①遺伝子異常により,皮膚の防御力が弱いこと,②ずっと内戦が起きているため,すぐ暴動がおきてなかなか鎮まらないこと,③効率よく刺激を受信するための神経レーダーが前線まで延び,痒みを強くかんじてしまうことでした.①に対してすることは,基本はとにかく保湿です.風呂からあがったら5-15分以内に自分に合った保湿剤を塗ってください.②に対してはとにかく早く,薬を使って鎮火させることです. 皮膚炎が起こっていると,新陳代謝が亢進し,どれだけ保湿剤を塗っても追いつかなくなります.そして,皮膚炎が長い間おさまっていると(年単位)③ようやく神経レーダーが撤去され過敏状態が改善していくと考えられています.アトピー性皮膚炎はもっと複雑だと思う人が多いと思いますが,この3つが本質です.