待っている人たちのために

アブストラクト賞

「お山の大将になれ」

「君たちを待っている患者さんがいる」

「人で選ぶのではなく 学問で専門科を選びなさい」

 これらが僕を皮膚科医の道へ導いた言葉だった。

 ただ白衣を着る仕事がかっこいいなと思っていた高校生に「お山の大将になれ」と言ってくれた担任の先生。決して成績が良くなかった僕に よくそんなことが言えたなと思うが それぞれの人間性をみて 適切なアドバイスをくれたのだと思う。

 もちろんその年は 不合格だった。

 浪人時代 有名な英語の先生が 生徒に向かって「君たちを待っている患者さんが必ずいるから 頑張りなさい」と言った言葉に 僕はなぜか 何度も勇気づけられた。

  研修医時代 背中を追った内科の先生が 迷っている僕にむけて言ってくれたのは「上司や仲間で選ぶのではなく 学問としてより興味があるものを選びなさい」だった。

  皮膚科医になった当初は いつか1人ですべての皮膚疾患をみられるように与えられた仕事を出来るだけこなした。大学院では乾癬という疾患で制御性T細胞の研究をし 力の限り研修してきた。

  忙しく過ぎていく大学勤務の中でも アトピー 性皮膚炎の患者と話をする時に つい熱がこもってしまったり 治療がうまくいかず 力になれず 悔しい思いをすることが多くあった。

  今思えば アトピー 性皮膚炎患者や病態に触れた時に 心が動いていたのだと思う。

  今まで自分の皮膚のことでたくさんのつらい思いをしてきたことが 同じように苦しむ人を理解できたり 薬やスキンケアについて まず試すことができたり 患者目線で見ることができると気付いて初めて 今までの経験が かけがえのない貴重な宝物になった。

  デュピルマブが使えるようになり アトピー 性皮膚炎治療に革命が起きた。続いてデルゴシチニブ軟膏(ステロイドではない薬)が使えるようになり バリシチニブの内服が追加され 今後もどんどん新しい治療が増えていく。

 こんな時代に 自分が皮膚科医で第一線で働けることを幸せに思う。

 患者であり 皮膚科医である僕が 限られた時間にやれることは本当に微々たることだとは思うが

 1人でも 暗闇から一歩踏み出す勇気を与えられたら

 1人でも 弱い 手のかかる皮膚に向かい合う勇気を与えられたらと

 そんなふうに 思うのです。

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